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東京地方裁判所 昭和32年(刑わ)4103号 判決

被告人 権赫時

主文

被告人を禁錮十月に処する。

ただし、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

被告人は、かねて自動車運転者として自家用小型乗用自動車(ルノー五六年型)第五は三一五九号を常時運転していた者であるところ、昭和三十二年九月十二日午前七時頃右自動車を運転して東京都北区神谷町附近の平和橋通りを宮堀交叉点方面に向い時速約三十粁で進行中、前夜来友人等と飲み歩き一睡もしなかつたためにわかにねむ気をもよおし、もはや安全な運転を期し得ない状態になつた。このような場合自動車運転者としては直ちに運転を中止して適当な休養をとり、ねむ気の消失するのをまつて運転を再開し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに拘らず、被告人は、これを怠り、そのまま運転を続けた結果、同町二丁目百五十八番地先にさしかかつた際一瞬仮睡状態に陥り、運転中の自動車を右側車道内に深く進入させ、折柄長男貢一(当三年)を背負つて同所を左から右へ横断中の吉村一二(当三十一年)に自動車の右前部を激突させて同人等をその場に転倒させ、よつて右貢一を頭腔内損傷により同日午前八時過ぎ同町二丁目百四十三番地神谷病院において死亡させ、右吉村一二に対し約三週間の入院加療を要する頭部挫創、頭蓋腔内出血および全身打撲傷の傷害を与えたものである。

(中略)

法律に照すと、被告人の判示所為は刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第三条第一項第一号第二条第一項に該当するところ、右は一箇の行為で数個の罪名にふれる場合なので刑法第五十四条第一項前段第十条により犯情の重い業務上過失致死罪の刑に従い所定刑中禁錮刑を選択し右刑期範囲内で被告人を禁錮十月に処する。ただし、被告人が悔悟の情を示していること、被告人と被害者吉村一二との間に示談が成立していること、被告人の運転免許が取り消され差しあたり同種犯行のくり返される虞れがないこと等諸般の事情を考慮し、同法第二十五条第一項により本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

そこで主文のとおり判決する。

(裁判官 横川敏雄)

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